岩の殿堂 
剣山荘より山頂(北方稜線撤退の記)

 二日目;剣山荘(5:13)→一服剱(5:40 5:50)→前剱(6:33 6:40)→平蔵の頭→カニのタテバイ→
剱山頂(8:10 9:25)→カニのヨコバイ(9:36)→一服剱(10:24 10:30))→剣山荘(11:50 12:15)→剱御前小屋(14:00 14:05)→室堂(16:20)
天候:晴れのち曇り(ガス)そして晴れ 気温:剣山荘の温度計7℃
 山頂はガスで寒し


午前4時、周りのざわつきで目を覚ます、上着を羽織り山荘の外に出てみると天空にはキラキラと星の輝きが目にまぶしい。
『やった!やったぞ!快晴』・・・長年の夢である北方稜線を歩くことが出来る。
高ぶる気持を抑えるようにして牛乳とパンで朝食を済ませ、池の平まで水場の無い北方稜線縦走に備えて新たに2gの水を補給する。

後立山の鹿島槍が朝陽に輝きはじめた5時13分、北方稜線の入り口剱山頂に向けて一歩を踏み出す。
まず最初のピーク一服剱には小さな岩場を二つ越えて行くのであるが、空身で登った過去2回と違い背中の荷物が重く腕に力が入る。

朝陽の当たり初めた後立山 一つ目の鎖場 一服剱へ先行する登山者

二つの鎖場を超えて
一服剱の頂に立つと前剱が朝陽を受けて見事な三角錘を見せてくれる、そして後には別山と剱御前。
剱沢からのコースではこの前剱の登りが最もきつく体力を使う場所なので必殺のゼリーでエネルギーの再補給をここで行う。

剱山頂前に立ちはばかる前剱の壁 剱沢をは挟んで別山と剱御前

一服剱からは一度前剱の鞍部まで下り、前剱へのガラガラの登りに入って行く。
ここは浮石が多いので足元に十分注意を払いながら上からの落石と下に石を落とさないようにゆっくりと高度を稼ぎ大岩を目指す。
水の補給により16`を越えているだろうザックが肩に食い込みキツイ!

前剱取り付きの緩やかなガレた道 大岩を目指す登山者の方々 大岩の下をくぐるように登る

ようやくたどり着いた大岩の下をくぐり左折し、ニードルに続く緩やかな鎖場を登って行く。
前回ここを通過したときにこの岩道で滑落され、亡くなられた方の生々しい跡が残っていたのをふと思い出し、
緩やかな傾斜とはいえ岩場の基本『躓き禁止』を肝に三点支持を忠実に守り抜けて行く。

ニードルを過ぎると岩場のトラバースが現われてこれをこなしてひと登りすると前剱到着となる。
前方のニードルに向けて岩場を登る 前剱手前の岩のトラバース・・右上は前剱

前剱山頂に着くとようやく剱本峰が顔を出し、カニのタテバイがまるで登山者を拒否するかのように立ちはだかっているのが見える。
陽が登った後立山連峰を眺めながら剱登山の核心部に向けて靴紐と胸ベルトを締め直し気合を入れる。

前剱より本峰を望む 光に輝く後立山連峰

前剱からは一方通行の登山路となり、少し下って鉄の小橋を渡り高度感のある岩峰をトラバースして行く。
岩道をさらに進むと平蔵の頭の岩場になり『エィヤァ』と力任せに岩を乗り越えて頭の岩峰を下ると平蔵のコルである。
この辺りよりガスが出始めて視界を遮るようになってくる。 ウーンちょっと嫌な感じ!

前剱直下の小橋を渡る 岩場のトラバース 平蔵の頭を登り返す登山者

平蔵のコルの岩場をトラバースしてゆくと前面には垂直に見えるカニのタテバイがデーンと立ちはだかってくる。
タテバイの前には数名の登山者の方が順番待ちをされておりザックを下ろしてチト休憩。
その間に別ルートから登れる場所はないかとさぐって見るがどうやらこの直登しかないようである。

*このタテバイでは夏の最盛期に1時間待ちが発生することもあるらしい!
山頂手前にデーンとカニのタテバイ 平蔵の頭を振り返る タテバイ直下でルートを確認する登山者
登りだすと前回は簡単にヒョイヒョイ登ることのできた壁が身体を上に上げるのにひと苦労、ふた苦労、み苦労もしてしまう。
最近お腹にしっかりと脂肪をプラスした自己の体重65`とザックの重み16`がキツイ! 
こんなはずではと根性を入れ直し腕に力を込めてグイグイと這い上がるも、強烈なバテと自己嫌悪が襲ってくる。

下山コース分岐であるカニのヨコバイ入り口でビタミンゼリーを吸い込みバテ回復の休憩! ああ情けない! しっかりしろ『山休』
カニのタテバイ核心部を登る 上と横から見たタテバイ…うまく撮れてなく前回の写真を利用しました。

ヨコバイ分岐からは鎖場もなく、四つん這いで登るところもなく、浮石に気をつけ早月尾根への標識を左に見てガレ場を登り
祠の建つ2999mの頂に予定より30分程遅れて8時10分に三度目の頂を踏む。 残念ながら山頂は濃いガスに覆われ全くの視界はなし。

今日の予定ではこの山頂は北方稜線の通過点であるはずがガスが濃くすぐに進むことが出来ない。
1時間程山頂でガスの晴れるのを待つもいっこうに回復の気配がなく、とりあえず長次郎のコル下降点まで脚を伸ばしてみるが、
視界が悪くルートが読めない! 『お前の技量では今日は無理だ』と本能が赤信号を発し山頂へと涙のUターン。

行くてを阻んだ濃いガスの北方稜線

無念の断念となるが、北海道より遠征してきた若者、九州より新幹線と雷鳥を乗り継いで初登頂を果たした男性二人、
被災地宮城より剱本峰に足跡を残された好青年、おやつを分けてくれた昔のおねえさんグループ、仲のよい山好きのご夫婦などと会話が弾み
展望は無くとも笑顔満載の山頂が北方稜線に代り楽しい想い出を作ってくれたようである。

ちなみにこの後、剣山荘まで戻ると同宿で小生より2時間程早く北方稜線に入られた方が三ノ窓付近の岩場で滑落されたとの一報を聞き
詳細は不明であるが大事に至っていないことを願うばかりである。

さあ 下山へ! モンベルの簡易水筒に入れた北方稜線用の予備水2gを廃棄し少しだけ軽くなったザックを背負う。
カニのヨコバイまでは登って来たガレ場を下って行き下山路の一方通行へ。
ヨコバイは高度感のある岩場のトラバースでスタンスをしっかり確保し、鎖をホールド代わりに三点支持で進めば安心して通過出来る。
カニのヨコバイを通過する登山者・・・スタンスの確保と壁に付かず怖がらないのがポイント!
ヨコバイを通過すると長い梯子があり踏み外さないようにゆっくり下りると平蔵のコル避難小屋跡である。
ここで往路と合流しコルの岩道を慎重に進んで平蔵の頭を登り返してゆく。

ヨコバイ直下の長い梯子(下り専用) ガスに煙る平蔵のコルの岩道 平蔵の頭を登り帰してゆく
次に現われるのが下りルート前剱の門の鎖場で一度登って前剱を巻くようにトラバーして、一服剱へと下って行く
一服剱までも戻ってくるとようやくガスが晴れだし下って来た前剱と後立山の鹿島槍、五竜が美しい山容を見せてれるようになる。
前剱の門 下山ルート鎖場 岩場に咲く花がほっとした時間をくれる
一服剱より前剱を眺め来年もと! 五竜、鹿島槍、爺ヶ岳の見事な稜線

一服剱からはなだらかな岩の道を下り11時50分剣山荘に帰り着き北方稜線断念の背中の重い剱登山を終える。
山頂より山談議をしながら一緒に楽しく下ってきた宮城県からの若者と雰囲気の良い山好きのご夫婦と山荘前で記念撮影を撮らせて頂く。

ガスの中パーティのように楽しく下山することができました。ありがとうございました。
いつかどこかの頂で再会すること約束し、ひとまずここでパーティを解散しました。
剱の友人と記念撮影 剱登山の宿 剣山荘

剣山荘でのベンチで休憩タイムを取ったあと剱御前小屋まで登り返し、ここに泊まり翌日立山を縦走してから帰宅も考えたが、
予約の人しか宿泊することが出来ず雷鳥坂を延々と下る。
途中雷鳥沢で見つけた湧水でラーメンを作り、腹ごしらえをした後石畳の道を室堂へと戻り17時のバスで帰宅の途に。。。

帰路はこんなにいい天気に チングルマも光輝く

北方稜線は涙の断念であったが、山好きの方々と知り合い、語らいのあるいい山旅であった。

来年も待っていろよ・・・剱君!